デス・オーバチュア
第126話「Devilish Concert」



魔族の組織的な上下、力関係はとてつもなく簡単で解りやすい。
最高位に二人の魔皇……だが、この二人は支配者というより、創造主……神であり、実質的な支配を行ってはいないのだ。
実質的な魔界の支配者は四人の魔王。
彼らは魔界を丁度綺麗に四分割し、それぞれの領地を問題なく治めていた。
他の魔族は上位(高位)、中位、下位(低位)の三段階、細かく分ける場合はさらにそれぞれを上級(高級)、中級、下級(低級)に分け、計九段階に強さによって分けるのである。
そして、その強さがそのままその魔族の地位、権力になるのだ。
魔界においては強さこそが絶対であり、全て……人間のように無能者が血統だけで権力を握ることは決してないのである。


それに対して、悪魔の組織的な上下、力関係はかなり複雑だ。
まず悪意や邪念が塊となって自然発生した純粋悪魔と、天から堕ちた天使である堕天使といった二つのタイプが存在し、互いに偏見や軋轢や差別が存在する。
さらに、古くから存在することをプライドとする自称高貴な悪魔と、力こそ全ての実力派な悪魔が存在し、互いに相手を、名ばかりとか、成り上がりとか、下卑していた。
そんなわけで、悪魔にはいくつもの勢力、派閥が存在し、上下や力関係が解りにくく複雑になっている。
だが、一つだけ明確なことがあった。
それは、全ての勢力、派閥は……悪魔王の絶対的な支配下の中での小競り合いに過ぎないということである。
それ程に、悪魔王の支配と力は絶対的で不変のものだった。

悪魔のNO2といえば、赤の悪魔騎士にして赤の枢機卿、悪魔王の唯一人の娘「悪魔王女」にして、悪魔王の直轄する秘匿集団「Qliphoth(クリフォト)」の長、カーディナルである。

そのクリフォトの一人にして、悪魔王の側近中の側近、悪魔王の愛人とも呼ばれるのがメアリー・アィーアツブス・リリスだ。
彼女は元人間であり、「成り上がり」の悪魔の最高位……それゆに、多くの悪魔の嫉妬と敵意を一身に受けており、敵も多い。


そして、ダルク・ハーケン。
彼はカーディナルやメアリーにも負けぬ程『有名』な悪魔だった。
黒の悪魔騎士にして黒の大司教、奈落の暴君(アピス・タイラント)、冒涜の規格外(ディシクレイション・ガイバー)、絶叫の処刑人、戦慄のギターリスト、絶望の旋律、天使喰い、四枚の悪魔ダルク・ハーケン。
悪魔界の最下層「奈落」を支配する大公(アーチデューク)にして、枢機卿に次ぐ地位である大司教(アーチビショップ)でもある最上級の悪魔だ。
しかし、彼が有名なのはその地位や権力からではない。
その強さ、その性格と生き方ゆえだった。
下衆、外道、卑劣……それが彼を現す言葉。
悪魔にとっては美徳、誉め言葉とも言えるとはいえ、支配階級の悪魔には気取った者が多い中、彼だけは正真正銘どこまでも下衆で卑劣な外道だった。
彼は手段を選ばない。
自らを不利にする誇りなど持たず、自分だけの美意識……欲望と快楽を果たすためだけに、彼はその力を振るうのだ。



「じゃあ、始めるか、女……てめえのさよならコンサートをなっ!」
悪魔のような……いや、悪魔の演奏会(コンサート)は問答無用で始まった。
「ヒャハハハハハッ! オレ様のサウンドに酔いなっ!」
ダルク・ハーケンの全身が爆発するように青白い光を弾けさせる。
「放電現象!?」
電光の眩しさに目を奪われる間もなく、タナトスの体は突然の背後からの衝撃に吹き飛ばされた。
「ヒャアハハハハハハハハッ!」
ダルク・ハーケンはギターのネックを両手に持ち変えると、自分に向かって飛んでくるタナトスに、大斧のように叩きつける。
「があっ!?」
タナトスはボールのようにギターでかっ飛ばされ、遙か遠方の壁に頭から叩きつけられた。
壁が崩れ、瓦礫がタナトスの姿を埋めていく。
「おいおい、まさか、これで終わりとか言わないよな? まだギターを一撫でしかしていないんだぜ」
ダルク・ハーケンはそう言うと、態とらしく肩をすくめて見せた。
「…………」
瓦礫の山が崩れると、その中からタナトスが姿を見せる。
「……なんだ、今のは……背後から音がしたかと思ったら……吹き飛ばされていた……」
「ヒャハハハハハッ! どうだ、最高だろう? 360度、どこからでもオレのご機嫌なサウンドが聴けるなんてなっ!」
「360度?」
ダルク・ハーケンがギターを一撫ですると、タナトスの足下から騒音と共に凄まじい衝撃波が起こり、タナトスの体を一瞬で天井に叩きつけた。
「……くっ……何が……どうなって……?」
「別にたいしたことじゃねえよ、オレは空間のどこにでもスピーカーを作れる、それだけの話だ」
ダルク・ハーケンが再びギターを奏でる。
「くっ!?」
左横から音が生まれたと思った瞬間、タナトスは思いっきり右横に跳んだ。
左側から生まれた衝撃波がタナトスを押し流していく。
だが、吹き飛ばされる直前に自分から跳んで少しでも音の発生点より逃れたおかげで、体が受ける衝撃は今までで一番軽かった。
「へっ、カンがいいじゃねえか。スピーカー……音の発生点から瞬時に離れるとはな」
「ようやく、解ってきた……お前の攻撃方法が……空間のどこからでも発生する音の衝撃波か……?」
タナトスには難しい理屈や法則は解らない。
解っているのは、ダルク・ハーケンが、あらゆる場所から『破壊力のある音』を発生させているということだ。
「まあ、そんなところだ。だが、それが解った所で、てめえに音が見えるか? 音がかわせるか?」
「…………」
タナトスは無言で魂殺鎌を召喚し、構えをとる。
「へっ、上等、殺る気かよ……じゃあ、熱く激しくハジケようぜっ!」
ダルク・ハーケンは全身から青白い火花を迸らせると、ギターを掻き鳴らした。
タナトスの真横の空間が騒音と共に爆発的な衝撃波を発生させる。
しかし、すでにタナトスの姿はその場にはなかった。
「あん!?……ちっ!」
ダルク・ハーケンのギターのネックが飛び出すように伸びる。
ネックの先端と魂殺鎌の刃先が激突していた。
「まいったね、音より速いってか?」
「魂殺鎌で切れない楽器……?」
「んじゃあ、もう手加減は一切いらねえよなっ!」
「くっ!?」
タナトスが後方に跳び離れると同時に、タナトスが寸前まで存在していた空間に音の爆発が起きる。
「てめえ、人間離れした移動の速さはともかく……なんで、音が生まれる前に、もう避け始めているんだよ!?」
「……そんなこと……」
「ああっ?」
「そんなこと私が知るかっ!」
タナトスは瞬時に再び間合いを詰めると、大鎌を振り下ろした。
「けっ!」
ダルク・ハーケンはバックステップしながら、ギターのネックで魂殺鎌の刃を弾き返す。
「たく、リズムも何も滅茶苦茶な野郎だ……なら、こいつをかわし切れるかよ!? ドゥームデスペラート!」
「つっ!」
タナトスの周囲に連続で無数の音の爆発が不規則に起こった。
けれど、タナトスはその爆発を全て直前でかわしている。
「化け物か、てめえ!? なんでオレ自身にすら解らない不規則な音の発生を事前に察知できるんだよ!?」
ダルク・ハーケンはタナトスが自分の音をかわしていることに驚いているのではなかった。
音より速く動けるだけなら別にいい。
超越者、人外の存在なら別にありえないことではないのだから。
問題は、タナトスが音が発生する前に、どこに音が発生するのか解っているとしか思えない回避行動をしていることだ。
「……なんとなく解る……音が生まれる直前に……気配のようなものが……」
「あん!? そんな馬鹿な話が……ちっ! なら、こうしたらどうするよ!? バークデストラクション!」
「くっ! しまっ……」
前後、左右、上下、タナトスの周囲の空間が同時に音の爆発を起こす。
「逃げ場がなかったら、予め解っていてもかわせねえだろう?」
複数の音の爆発が共鳴、反響を起こし、凄まじい音響爆発がタナトスを中心に巻き起こった。
「……ぐっ……うっ……」
タナトスは服と体をボロボロにしながらも辛うじて立ち上がる。
「傷つくぜ……まるでオレの技が威力ないみただろう……ちゃんと吹き飛んでくれないとよっ! エレクトリックパレット!」
ダルク・ハーケンのギターの先端から青白い電光が弾丸のように撃ちだされた。
「くぅぅっ!」
タナトスは力を振り絞って、飛来した弾丸を切り払う。
「てめえはよ……脆弱なオレのサウンドじゃ満足できねえんだろう? だったら……直接痺れさせてやるぜ! オレの魂のスパークでな!」
ギターの先端から電光が機関銃(マシンガン)のように連続で撃ちだされた。
「くっ……はあああっ!」
タナトスは魂殺鎌を前面で回転させて、降り注ぐ電光の弾丸を弾き続ける。
「あの子と同じような能力?……いや、少し違う……」
あの子……ランチェスタの操る電光と、ダルク・ハーケンの電光は何かが決定的に違う気がした。
この場にエランなり、リンネなり博識で説明好きな人物が居たら詳しく解説してくれただろうが、残念ながらこの場にはダルク・ハーケンとタナトス以外誰もいない。
タナトスに解るのはあくまで直感的に感じる差異だけだった。
「オラオラッ! それで安心してんじゃねえよ!」
突然、ダルク・ハーケンの姿がタナトスの目前に出現したかと思うと、ギターを鉄槌のように振り下ろす。
「がっ!」
凄まじい圧力がかかり、ギターを受けた魂殺鎌がタナトスに握られたまま地面に叩きつけられた。
「ハートで痺れなっ! エレクトリックバンカー!」
ダルク・ハーケンが一歩踏み出すと同時に、ギターのネックが物凄い勢いで射出されるかのようにタナトスの心臓目指して伸びる。
「くっ!」
タナトスは迷わず魂殺鎌から両手を離すと、後方に跳びつつ、両手で心臓を庇った。
「甘いぜ、エレキトリックの名は伊達じゃねえんだよ!」
ギターの先端に青白い電光が奔る。
「なっ!?」
「てめえのハートに直撃だぜ!」
ギターの先端から青い電光でできた杭が打ち出され、タナトスの左胸を両手ごと寸分の狂い無く貫いた。













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一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。



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